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山から考える

日本では木で家をつくることは、ごく自然の選択肢だったと考えられます。
南北に長く延びた日本列島は、亜寒帯から亜熱帯の気候帯に属し、しかも海洋性の気候のために降水量に恵まれて豊かな森が形成されていたために、その木を使って、その木を育てた気候に適した住まいを造り続けてきたと言うことができます。
一方で稲作を中心にしてきた生活の中で、木の住まいに適した材料が作られ、木を加工する道具が作られ、その道具を使った技術が発達してきたことも間違いありません。
これらのことを総合して考えてゆけば、われわれが木の住宅を選択する精神的な要因を記述することが可能になります。
伝統、伝来の技術、木のぬくもり、なつかしさ、等々の表現はそれらを指し示す言葉で、それは決して間違っていないことだと思いますが、しかし、私たちはそこに留まっていることができなくなりつつあります。
日本の森は、杉と檜を中心に植林された森が40%ですが、現在の木材価格の低迷でほぼ手入れがされないまま放置されている状態が続いています。

■1.日本の山の分布

日本の山の分布

■2.山元立木価格の推移

山元立木価格の推移

山での杉の立木価格は1955年と2003年と同じです。
このようなことは、他のどの業種でも聞いたことがありません。
山が成り立たないことの原因がここにあります。
一方で、木材の自給率は下がりつづけて現在ではわずか20%ですが、人工林の面積は増えつづけています。

このような状態を考えると、積極的に木造住宅を選択する一つの理由が見つかります。

木は住宅を造る材料としては唯一、再生産できる素材であり、製品になるまでのエネルギーコストがもっとも小さい材料です。
伝統構法が木と一緒に使ってきた土壁なども同じ系統の素材です。
これからの日本でどんな材料で住宅を作り続けるのかと考えると、木で造るという答が最も積極的な選択になると思います。
良く言われることですが、切った木と同じ年数使うような住宅であれば、理屈的には循環型の住宅を最小のエネルギーで実現できることになります。
私は、木造住宅の選択を、山の維持と同時に考えることで、循環型の環境を作り出すことへの具体的な行動の開始になるものと考えています。

■3.国産材と外材の生産量の推移

国産材と外材の生産量の推移